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地球の上の”門間ゆきの”さんのお話 前編

まずはこちらをお読みください。
こちらの企画についてお話しています♪

鹿児島と出会った話

これは、こめちゃんの小さな台所で話した、鹿児島との出会いのお話。
こめちゃんはこのバトンを渡してくれた増田友里さん。
台所は記事「台所考」を参照。

http://naokoontheearth.com/2018/06/30/story-masudayuri-fire/

* * *

鹿児島で新聞社の採用試験を終えて京都に帰ってきた私は、翌日、お土産の「唐芋レアケーキラブリー」を持って、こめちゃんの津山荘を訪ねた。8畳ほどの和室には、植物や調理器具や文房具や、よくわからないいろいろが、それぞれ居心地のよい場所を見つけて落ちついていて、宇宙みたい、といつも思う。

私たちはみそ作りをしながら話した。2016年9月24日、夏の暑さが和らいだ午後のこと。

―ゆっきーのはなんで記者になりたいだ?

長野出身のこめちゃんが、方言混じりで聞く。私はこめちゃんの安曇野弁が好きだ。

「いろんなとこ行って人に会うのが好きだからかなあ。尊敬する先輩がいて。その人が記者で。同じ世界に入りたいなって思った」

―大学の先輩だ?

茹でた大豆を手のひら大のボールに丸めながらこめちゃんが聞く。

「そう、入れ替わりで卒業されたから実はよく知らないけど、就職活動の時、そういえば記者してる先輩がいたな~って思い出して連絡したらいろいろ応援してくださった」

丸めた大豆は床に置いた鍋の中へ投げ入れる。こうして豆の中の空気を抜く。

「先輩と同じ会社受けたんだけど、最終面接で落ちちゃって。へこんだ。それで先輩が働く現場を見に行こうって、徳島に行ったの。青春18きっぷとハンモックのきまま旅」

ハンモック(左から)マレーシア、タイ・カオサン通り、タイ・東北カラシン県カオボン村、ベトナム、タイ・アユタヤで買ったもの。一つ500~700円

―ハンモック?

「うん、東南アジアで買い集めたの。いい感じの木を見つけて、ハンモック吊って泊る。宿を予約しなくていいし、チェックインの時間に縛られない。何より宿泊費ゼロ。明るいうちに快適な場所の目星を付けておく必要はあるけどね」

―1人で行っただ?

「ううん。つげちゃんとやまもんと。つげちゃんは就活仲間。やまもんは大学の演劇サークルにひょっこり現れた30歳。ふたりは初対面だったんだけどね。2泊3日、つげちゃんと私が電車で移動して、やまもんがバイクで、適当な駅で落ち合うって構図」

―ハンモックで寝ただ?

「やまもんは『僕はテントで寝ます』って。笑 つげちゃんと私はハンモック。1泊目は阿波池田駅の前の公園で、2泊目は祖谷の山の中。この旅がすっごく楽しくて。思えば、ここから吹っ切れたんだなあ。自分が面白いと思う土地で好きな仕事できるんだったらどこへでも行こうって。あ、先輩にも会って美味しいお魚をごちそうになりました」

―それから鹿児島に行くことにしただ?

「そう。大阪の生涯学習センターにいろんな地方紙置いてあって。そこで鹿児島の新聞見たの。火山、宇宙、島、農業、漁業…と話題の幅が広い。ネタに尽きない、おもろい人生が送れそうだってピンと来た。ちょうど秋の採用をしていたので大急ぎでエントリーシートを送ったの」

「その鹿児島の新聞で、【春本旅館が閉館する】って記事を見つけたの。老舗で格安で、夕食は多くておいしいとのこと。すぐ電話して採用試験中の1泊を予約した。今度はハンモックってわけにいかないからね。それ以外は、毎日試験の結果が出てから次の宿を探すその日暮らし。6泊7日の旅になった」

大豆を投げ終わった。あとは10カ月発酵させたら完成する。採用が決まれば、その頃私は鹿児島にいるのか。

私は旅の話を始めた。

* *

「初日は人生初の一人ネカフェ。夜遅く鹿児島に着いて、寝るだけだったからね。女性専用エリアに入ると、強烈にフローラル!至る所芳香剤スプレーしてるんじゃないかって。耐えられなくて。共用エリアに移動して落ち着いた。あとは文句なし。きれいだし、ドリンクもシャワーもあって9時間2千円。筆記試験に備えてさっさと寝た」

―試験はどうだっただ?

「びしょぬれ。笑 朝は天気良かったの。街路樹がヤシで南国らしいなあとか、道に積もってる黒い砂は桜島の灰かなあとか。そんなふうに歩いてたら、会社まであと100mってところで、すんごい雨が降ってきたの。まあ、自分としては、ああやっぱり、みたいな。私、大切な日にはたいてい雨。自分の成人式も、初めて呼ばれた親友の結婚式もどしゃぶりだったから」

びしょぬれで試験会場に着くと、ほかの受験生50人は全員乾いた状態で座っていた。

「私だけ違う世界から来たみたいだった。席は一番前で、座ろうとしたら、呼び止められたの。オオカミみたいな険しい顔した男の人、人事部長。ちょっとこっちへって別の部屋へ案内されて、ここで拭いていらっしゃいって。そう言われても、うすっぺらい手ぬぐいしか持ってなくて、それも濡れてて。まあ形だけ拭いて会場に戻った。クーラー効いてて、あー風邪ひきたくないなって」

試験はなんとか終わり、服はなんとなく乾いてスーパーでお昼ご飯を買った。

「鹿児島のスーパーってね、何かとイモ押しなの!焼き芋売り場、芋の蒸しパン、芋餅。和菓子コーナーも初めて見るやつばっかり!”ふくれ”とか”あくまき”とか??」

鹿児島では言わずと知れた「ニシムタ」や「城山ストア」だが、当時の私には郷土資料館のようだった。

「その日は楽しみにしていた春本旅館。ごはんは期待通り大満足!女将さんと娘さんが、創業75年の歴史、女将修行の話、鹿児島の県民性とか、鹿児島弁教えてくれた。新聞のバックナンバー1か月分くれたりして。娘さん、美由喜ちゃんって言うの。歳は4つ上くらいで、メイクばっちりの美人さん。福岡で働いてたんだけど、旅館閉めるって聞いて、手伝いに帰ってきたんだって。彼氏いるのー?っていきなり恋バナ始まってびっくりした。笑」

―観光もしただ?

「うん。面接って昼には終わるから時間がたっぷりあるわけ。暇じゃん?だからね桜島行ったよ。フェリーで15分、160円!24時間運航!」

桜島の赤生原というところでブリの養殖をしていると新聞社のルポ「火山と人間」で読んだ。養殖を見たくて、島を右回りに歩いた。民家の屋根にはシャチホコ、道端には大きなヘチマ。

「すごいの、生命の島なの!島に渡る前は灰色に見えてたんだけど、近づいてみると山肌に緑がたくさん!生きてる~~ってかんじ」

台風接近のため、フェリーが運休するということで、滞在時間わずか40分で引き返したけれど、渡って良かった。

「それから、”ぬれたんふ”ってお笑いライブに行ったの。地元の芸人さんが出る、月に一度のライブ。ちょうどその日の朝刊で眼に入って。鹿児島の笑いとは、って気になってね」

メンバーたちが好きなひらがなを一つずつ出して“ぬれたんふ”。会場は高見馬場にある30席ほどの小さな劇場型カフェMINGO MINGO。台風のせいか、客は10人くらいしかいない。「前のほうへ」と促されて最前列の真ん中に、芸人さんの鼻の穴見上げるように座った。

―面白かっただ?

「うん、鹿児島弁で地元ネタ。だいたいわかった。途中で電話来て、面接の結果ね。ライブ会場だからよく聞こえなくて。人事の人が、『どこにいるんですか?なんだかまわりが賑やかですね』って」

一次面接は通っていたようで、安心してお笑いを楽しんだ。

「そう、そこでね、しょうこママたちに会ったの!」

―?!

「芸人さんに『どこから来ましたか?』って聞かれて、京都って答えたの。そのやり取りを見てたらしく、声をかけてくれたの。年長さんのここちゃんとそのお母さん。『ごはん一緒にどう?』って」

私たちは、天文館のイタリアン「LIVI THE 5」に行った。天文館は京都でいう四条寺町、名古屋でいう大須、のような繁華街。ここちゃんと仲良くなって、一緒にひらがなを練習した。

「しょうこママたちはぬれたんふファンで、『初めて舞台に立って、緊張して全然しゃべれなかった子たちがだんだんうまくなるのよ』って。芸人の卵たちが経験積んで、上京して、また帰ってきて舞台に立つ。いい場所だよね。しょうこママは、『鹿児島のお母さんと思って。就職したらまた一緒にぬれたんふ行こう』って応援してくれた」

続く……

 

プロフィール
門間ゆきの(かどま ゆきの)
奈良一族に生まれるが愛知県名古屋市育ち。古都と寮生活に憧れて大学は京都へ。2017年4月から鹿児島の新聞社で働く。鹿児島で好きになった食の第一位はきんかん。

ハンモックスポット開拓中。
これまで試したのは…北海道砂川の子どもの国の緑地、名古屋市熱田の神宮東公園、京都鴨川、滋賀の琵琶湖畔・堅田の月影公園、和歌山加太の砲台跡、徳島県阿波池田駅前へそっ子公園、祖谷ふれあい公園、鳴門。

Group『Fire』前のお話
「地球の上の”増田友里さん”のお話」

 

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